僕が仕事をしていた外資系の生命保険会社には、ブルーブックという門外不出(?)の営業の教科書がありました。
アメリカ本国のものを和訳したものです。(ホントかどうか知りませんが)
その中に、KASH という言葉が出てきます。
これは、営業に必要な4つの要素の頭文字をとったものです。
- Knowledge(知識)
- Attitude(姿勢)
- Skill(技術)
- Habit(習慣)
4つとも、営業には必要不可欠な要素なのですが、この中で1つだけ毛色の違うものがあります。
それが、Attitude(姿勢)です。
実は、知識、技術、習慣が、まったく同じレベルの営業マンでも、一方は好成績を挙げ、他方は売れていない、ということがよくあります。
これは、Attitude(姿勢)の違いによるものなのです。
Attitudeには、「姿勢」という概念のほか、「心構え」や「態度」「自信」などの意味合いもあります。
Attitudeという言葉は、普段あまり使わないので、ここではスタンスという言葉に置き換えて説明します。
営業に必要なスタンスは以下のようなものがあります。
- 仕事に対するスタンス
- 商品に対するスタンス
- 会社や職場に対するスタンス
- 自分自身に対するスタンス
- 見込客に対するスタンス
この中で、好成績の営業マンと、そうでない営業マンを分ける最大の要因になっているのが、❺見込客に対するスタンスです。
実は、見込客に対するスタンスをみれば、どの程度の営業マンなのか、一目瞭然でわかります。
もし、知識やスキルはそこそこあるのに、思ったように結果が出ない、というのであれば、まずスタンスを見直してみましょう。
Contents
見込客に対するスタンスとは
スタンスとは、見込客に対する「立ち位置」のことです。
見込客に対して、どのようなスタンスを取るのか、これが非常に重要なポイントなのです。
結論から言うと、スタンスは、見込客に対して、最低でも対等、できれば上にする必要があります。
もちろん、これはあくまでも精神的、マインド的なもので、横柄な態度や、上から目線の言動を意味するものではありません。
たとえば、あなたが大の釣り好きだったとします。
あるとき、会社の上司に「今度、初めて釣りに行くんだけど、わからないことが多くてね」と、言われたとします。
おそらく、あなたは、部下の立場を取りながらも、いろいろアドバイスをして、上司の不安を解消してあげるはずです。
このとき、上司に対して取っているスタンスが「上」になります。
別のたとえを使うなら、医者と患者の関係といってもいいかもしれません。
これが、営業で必要なスタンスです。
ところで、なぜ見込客に対してスタンスを上にする必要があるのでしょうか。
なぜスタンスが重要なのか
スタンスを高くしなければならない理由。
それは、決断させるのが営業マンの仕事だからです。
極端な言い方をすると、見込客の言うことをきくのが仕事ではなく、見込客に言うことをきかせるのが仕事だ、ということなのです。
これは、スタンスが高くなければできません。
スタンスが低いと、見込客をリードできなくなってしまいます。
また、スタンスの違いで、一語一句同じセールストークであっても、見込客にはまったく違ったニュアンスで伝わります。
結局、売れる、売れないはスタンスしだいなのです。
では、なぜ見込客に対してスタンスが低くなってしまうのでしょうか。
その要因のひとつに、営業スタイルに対する誤ったイメージがあります。
売り込んではいけない、という誤解
近年、提案型営業とか、コンサルティング営業といった概念が主流になってきました。
営業とは、「商品やサービスを一方的に売り込むのではなく、見込客のニーズをしっかりと聞き出し、その問題の解決策を提案することだ」という概念です。
まさに「おっしゃるとおり!」という、非の打ちどころがない概念です。
しかし、
提案型営業とかコンサルティング営業という言葉が、あまりにもスマート過ぎて、これらを「売込みしない営業」と勘違いしている営業マンがとても多いのです。
要は、「押しの営業は悪で、引きの営業が善だ」という思い込みです。
しかし、それは、100%間違っています。
これは断言してもいいですが、好業績を挙げている営業マンは、ほぼ例外なく「押しの営業」をしています。
彼らには、その自覚があまりないのですが、商談の最初から最後まで、間違いなく見込客を押しています。
もし、見込客を「押す」ことなく成約に至ると思っているとしたら、それは、告白もせずに、「好きな女子と付き合うことができる」と、妄想しているファンタジー男子と同じです。
「僕は売り込みしません」と、言っている営業マンの多くは、実は見込客を恐れています。
つまり、腰が引けているのです。
腰が低いと、腰が引けているはまったく違います。
では、スタンスを上げるために、何が必要なのでしょうか。
どうしたらスタンスを高くできるのか?
見込客に対して、スタンスを高くするとはいっても、意識するだけでは変わりません。
高くするためには、その裏付けが必要です。
そのためには、まず、営業の本質を理解することです。
ここで、営業という仕事をシンプルに分解してみましょう。
営業活動は、次の4つの要素で説明ができます。
この要素の中で、多くの営業マンは 「whom(誰に)」「how(どうやって)」ばかりを考えがちです。
しかし、スタンスを高くするためには、まず「who(誰が)」と「what(何を)」を考えるべきです。
というのも、営業では次の2つのポイントがクリアになっていなければ、購入には至らないからです。
- 信用してもいいのか?
- 買う必要性があるのか?
この決め手になっているのが、「信用」=who(誰が)、「必要性」=what(何を)なのです。
もう少し、詳しくみてみましょう。
who-誰が売るのか?
営業では、信用されなければ、ジ・エンドです。
信用の対象には、「営業マン」「会社」「商品(サービス)」がありますが、この中で、圧倒的に大きいのは、なんといっても「営業マン」です。
こういう話をすると、大半の営業マンが「そんなこと、わかってるわ!」という反応をします。
そこで、「信用してもらうために、何が必要なの?」と質問すると、たいてい次のような答えが返ってきます。
「誠実さ」「正直さ」「マナー」「第一印象」「知識量」「クイックレスポンス」…
確かに、その通りです。
しかし、これらは、どれも枝葉であって「本質」ではありません。
見込客が、「信用」の決め手にしているもの、それは営業マンの「強さ」です。
もし、強い営業マンと弱い営業マンがいるなら、見込客は間違いなく、強い営業マンの方を信用します。
これは、おそらく動物的な本能のようなものです。
そして、見込客は、この強いか、弱いかを、営業マンのスタンスで判断しているです。
つまり、いくら知識やスキルがあっても、スタンスが低ければ信用されない、ということなのです。
では、この営業マンの強さの正体は何でしょうか?
それは、役に立てるという自信です。
ここで、ポイントになるのが、「what(何を)」売っているのか、なのです。
what-何を売っているのか?
「何を売っているのか」という問いは、実はとても重要です。
というのも、この問いに対する答えを聞けば、見込客に対するスタンスがわかるからです。
残念ながら、多くの営業マンは「商品やサービスを売っている」で思考停止しています。
すると、どうしても、「なんとか買ってもらいたい」という意識が強くなり、結果的にスタンスが下がってしまうのです。
営業とは、商品やサービスを売るのが仕事ではありません。
何を売っているにしろ、売っているのは「問題の解決策」です。
つまり、見込客の顕在的、潜在的な問題を解決することが、営業マンの仕事であり、役割なのです。
ところで、見込客は問題を解決することで、何を得ようとしているのでしょうか。
それは、「理想の未来を実現するための可能性」です。
つまり、これこそが営業マンが売っているものなのです。
このことが、腹落ちしている営業マンは、役に立てるという自信を持って、見込客に対峙しています。
自分の扱う商品やサービス、あるいは自分という商品は、どのような未来を実現する可能性を持っているのか。
それを、見込客の立場に立って、真剣に考え続けることが「役に立てるという自信」を生み出します。
そして、それが営業としての強いスタンスを作り出すのです。
自分のスタンスを決める
ここまで、見込客に対するスタンスについて考えてきました。
次にやるべきことは、見込客に対する自分のスタンスを決めることです。
自分が果たすべき役割や使命について考え、見込客に対して、どのようなスタンスで接するのかを具体的にイメージします。
もし、身近に見本にできる営業マンがいるなら、彼らの見込客に対するスタンスを参考にしてみましょう。
このとき、できる、できない、は、考えなくても大丈夫です。
なぜなら、営業は演じるもの、だからです。
つまり、「自分のスタンス」を決めるとは、「何者を演じるか」という役柄を決めるということです。
「演じる」というと、なんか胡散くさい、と抵抗を感じるかもしれませんが、しかし、人は普段から「自分」を演じています。
しかも、それはひとつではなく、常に相手次第、場所次第で演じる役を変えています。
作家の平野啓一郎氏は、その著書の中で、これを「分人」という言葉を使って語っています。
もし、あなたが思うように売れていないのなら、それは、知らず知らずのうちに、売れない営業マンを演じている、ということに他ならないのです。
マイ・ルールを決める
自分のスタンスを決めるとき、マイ・ルールを決めることをお勧めします。
このとき、「これは、やらない」というのをルールにしてみましょう。
たとえば、僕は生命保険の営業をしているとき、次のようなマイ・ルールを作っていました。
- お願いセールスは絶対にしない
- 2回アポキャンされたら本音を確認する
- 決断できない見込客の商談はいったん白紙にする
- 見込客からの返事待ち、連絡待ちはしない
- 「入ったろか」という話には乗らない
これが正しいかどうかは問題ではありません。あくまでも自分のルールだからです。
ちょっと見てもらうと、誰を顧客にするかは自分が決める、というスタンスが感じてもらえるのではないでしょうか。
多くのトップ営業マンを見てきましたが、例外なくマイ・ルール、あるいはマイ・ポリシーを持っています。
それが、強いスタンス、ブレないスタンスの元になっています。
ぜひ、一度考えてみてください。
とにかく演じ続けてみる
スタンスが決まり、役柄のイメージができたら、あとは役になりきって演じるだけです。
マイ・ルールを決めたのであれば、頑なに守ってみましょう。
最初は、うまくできないかもしれませんが、演じ続けていると、必ずその役が板についてきます。
そうなると、もう演じているという意識はなくなっているはずです。
演じる必要がなくなったときには、「役に立てるという確固たる自信」が身についているはずです。
まとめ
最後までお読みいただきありがとうございました。
営業マンのスタンスを左右しているのは、実は見込客に対する「恐れ」です。
不快にさせるのではないか、断られるのではないか、という恐れがスタンスを下げていきます。
この恐れは、ベクトルが自分に向いていることから発生します。
営業マンの重要な使命は、見込客が正しい選択をするように導くことです。
そのためには、見込客に対して高いスタンスを取る必要があります。
「見込客を恐れなくなって、はじめて一人前の営業マン」です。
一度、自分の営業スタンスを見直してみましょう。
営業スタンスについては以下の記事も参考になると思います。