お笑いコンビ、紳助・竜介の軌跡を描いた「紳竜の研究」というDVDがあります。
この中に、島田紳助氏が、2007年にNSC(吉本興業の養成学校)で行なった講義を収録した、「手段」というパートがあります。
この冒頭で、紳助氏はとても興味深いことを言っています。
「笑いっていうのは、音っていうか、音感やねん」
「歌の音痴と、しゃべりの音痴がいんのよね」
「しゃべりの音痴」とは、なかなかインパクトのある表現ですが、ネタだけでは笑いは取れないということ。
これは、そっくりそのまま営業にも当てはまります。
話の内容がどれだけ良くても、それが見込客に「どう聞こえたのか」によって心が動くかどうかが決まるのです。
見込客は、営業マンの話を「音」として聞いています。
歌には「歌い方」があるように、営業には「話し方」があるのです。
今回は、営業の「話し方」について、簡単な4つのコツを取り上げます。
- やさしい言葉をつかう
- 「間」を意識する
- オノマトペをつかう
- 「っ」の3秒止め
Contents
❶やさしい言葉をつかう
営業において、最も意識しなければならないのは、わかりやすさです。
わかりにくい話し方は、伝わらないだけでなく、見込客をイライラさせ、営業マンの印象も悪くしてしまいます。
まず、できるだけ「やさしい言葉」を使うように意識しましょう。
もし、商談の中に、よくわからない言葉、聞き取りにくい言葉が出てくると、見込客は、そこで「ん?」となって、一瞬立ち止まってしまうのです。
その瞬間、次の話は聞いていません。
こうしたことが、頻繁に起こると、ピースが抜けたジクソーパズルの絵のように、なんの話かわからなくなってしまいます。
なので、誰でも聞き取れて、すぐに理解できる「やさしい言葉」を使うことが、とても大切になるのです。
やさしいには、「易しい」と「優しい」の2つがあります。
易しい言葉を使う
まず、できるだけむずかしい言葉を使わないことです。
具体的には、専門用語とカタカナ用語です。
これらは、ちょっとプロフェッショナルな感じがするので、多くの営業マンが使いたがりますが、それは単なる自己満足です。
ここで、気をつけたいのは、なにが専門用語なのか、という基準です。
対象が一般の人の場合は、特に注意が必要です。
たとえば、生命保険業界であれば、「保険金」「保険料」「解約返戻金」「失効」などは、すべて専門用語です。
やむなく専門用語と使うときは、それに解説をつけてあげるようにしましょう。
専門用語と同様に、カタカナ用語にも注意が必要です。
カタカナ用語は、「なんとなくわかるけど、実はよくわからない」といった感じのものが、たくさんあります。
使うのであれば、誰もが知っているものにしましょう。
優しい言葉を使う
もし、5歳、6歳くらいの子供に話をするとしたら、どんな言葉を使うでしょうか。
わかりやすいように、聞き取りやすいように、と言葉を選んで使うはずです。
それは、相手に対する「優しさ」です。
そのとき、難しい「漢字」を使わないように話すのではないでしょうか。
食べ物で例えると、「漢字」は何度か噛まなければ飲み込めない固い食材。
一方、「ひらがな」は、水やお茶のような液体で、噛む必要はありません。
そのため、漢字は、目からは入りやすいのですが、耳からは入りにくい言葉なのです。
たとえば、次の2つは意味は、ほぼ同じです。
A : 消費電力を圧縮できます
B : 使う電気を少なくできます
目で見るなら、「A」の方が理解しやすいですが、耳で聞くなら、「B」の方がわかりやすいのです。
つまり、目で見てわかりやすい、と、耳で聞いてわかりやすい、は違うのです。
優しい言葉は、「優しい音」となって見込客に届きます。
よくパンフレットの説明文のような、漢字だらけの話し方をする営業マンがいます。
本人は、「完璧な説明だ!」と思っていても、それを「音」として聞いている見込客には、ただ難解な説明以外の何ものでもないのです。
営業では、できるだけ「B」のような、優しい言葉で話しましょう。
❷「間」を意識する
前述の島田紳助氏の講義の中で、「間」に関する話が出てきます。
紳助氏は、デビュー前に、当時売れていた先輩漫才師たちの漫才を、ひそかに会場で録音し、それを一語一句紙に書き起こして徹底的に研究をした、と述べています。
その結果、うまい漫才師の人たちは、1分間の「間」の数が多いということに気づいた、と言っています。
この「間」は、営業においても非常に重要です。
なぜなら、「わかりやすさ」と直結しているからです。
「間」には、大きく3つの効果があります。
- 理解するための「間」
- 消化するための「間」
- 期待を持たせる「間」
「間」を制することができれば、会話を制することができます。
理解するための「間」
人は耳から入ってきた言葉を、瞬時に理解しているわけではありません。
それを、脳がさまざまな処理をして、はじめて理解できるのです。
ところが、「間」のない話し方をされてしまうと、この処理が追いつかなくなり、場合によっては、脳がフリーズしてしまうのです。
脳はフリーズしそうになると、シャットダウンしてしまいます。
つまり、見込客は、もうその先の話を聞いていないのです。
話に「間」があることで、見込客は情報を処理する時間を確保できるのです。
消化するための「間」
営業マンの話が理解できたとしても、そのほとんどは、右から左へ抜けて行きます。
つまり、印象に残らないのです。
しかし、重要なポイントや論点まで聞き流されてしまうと、さすがに困ります。
なので、ポイントや論点などは、伝えたあとに意図的に「間」を作ってみましょう。
コツは、見込客をしっかりと見ることです。
ちゃんと伝わったかを、見て確認することで、「間」を作ることができます。
それにより、見込客は、情報をしっかりと消化することができます。
この「間」は、言ってみれば、染み込みタイムです。
伝えた情報が見込客の中に染み込み、記憶や心象に刻まれる「間」なのです。
期待を持たせる「間」
重要なポイントや結論、オチなどを明かす前に「間」を作ると、聞き手はその答えを知りたくなります。
つまり、興味、関心がグッと増すのです。
それにより、話の内容が記憶や印象に残りやすくなります。
逆に、「実は、ここに落とし穴があるのですが、それは○○なんです」と、「間」を作らず話すと、ほとんど印象に残りません。
実は、話がおもしろい人や、わかりやすい人は、こうした「間」の使い方が非常に上手いのです。
自然に「間」をつくる方法
「間」を意識して使えるようになると、話し方のレベルはかなり高くなります。
ただ、一方で「むずかしいな」と感じる人もいるかもしれません。
しかし、自然に「間」をつくれる方法がありますので、ここでは、それを3つご紹介します。
- 「。」読点で短く区切る
- 「えっと」「えー」をなくす
- 語尾を伸ばさない
読点「。」で短く区切る
「間」を作るもっとも簡単な方法は、読点「。」で区切って一文を短くすることです。
「~です。」「~ます。」など、文を「。」で終了させると、そのあとに自然に「間」ができます。
ところが、多くの営業マンは、逆に流ちょうに、途切れなく話そうとしています。
つまり、わざわざ「間」をなくすように話しているのです。
これは、まるで「息継ぎなしで何メートル泳げるか」と頑張っているようなもので、聞いているほうは、まちがいなく呼吸困難になります。
そもそも、営業では、流ちょうに話す必要は、まったくありません。
まず、1つのメッセージを伝えたら、「。」で切るようにしましょう。
パワーポイント作成などで、よく言われる「One slide, One message」と同じです。
必然的に、読点「。」が増え、「間」の数が増えるはずです。
「えっと」「えー」をなくす
商談で、「えっと」とか「えー」という癖がある営業マンは、驚くほどたくさんいます。
人によっては、「あのー」という場合もあります。
これらの口癖は、せっかくの「間」を、すべてつぶしてしまいます。
この「えっと」や「えー」は、たいてい次の言葉を考えているときに、無意識に言っているはずです。
つまり、これは相手ではなく、自分に向かって発している、ただの「独り言」なのです。
なので、思わず言いそうになったら、声には出さず、心の中で言うようにしてみましょう。
それだけで、しっかりと「間」を作ることができます。
語尾を伸ばさない
話をするときに、語尾を伸ばしてしまう癖がある営業マンも結構います。
そのときは、必然的にアクセントも語尾になっています。
これも、せっかくの「間」をつぶしてしまう要因になっています。
ポイントはー、2つありましてー、まず耐久性なんですけどー
この語尾を伸ばしてしまう癖は、前述の「えっと」「えー」と相性が良く、しばしば最強のタッグを組んでしまいます。
こうなると、聞いているほうは、かなりのストレスを強いられます。
ポイントはー、えっとー2つありましてー、えっとーまず耐久性なんですけどー
語尾を伸ばすと、間がなくなるだけでなく、話し方に切れ味がなくなります。
つまり、だらしない話し方になってしまうので要注意です。
語尾を伸ばさず、スパッと切ると、かなり印象が変わります。
❸オノマトペをつかう
オノマトペとは、「ぴかぴか」とか「ふわふわ」「ごろごろ」などの、擬音語、擬態語のことです。
外国語と比較して、日本語には、このオノマトペが圧倒的に多いそうです。
言語学者の金田一氏は、擬音語・擬態語を、さらに細かく5つに分けています。
「擬声語」:わんわん,こけこっこー,おぎゃー,げらげら
「擬音語」:ざあざあ,がちゃん,ごろごろ,どんどん
「擬態語」:きらきら,つるつる,さらっと,ぐちゃぐちゃ
「擬容語」:うろうろ,ふらり,ぐんぐん,ばたばた,のろのろ
「擬情語」:いらいら,うっとり,どきり,ずきずき,しんみり
さて、営業の目的は、理解してもらうことではなく、行動してもらうことです。
行動してもらうためには、見込客の感情を動かさなければなりません。
実は、オノマトペは、聞き手の感情や感覚に、直接訴えかける効果があるのです。
「見てすぐにわかるので、誰もが楽しみながら学べます」
「見てパッとわかるので、誰もがワクワクしながら学べます」
オノマトペをつかうと、臨場感やシズル感がわき、状況や感情をイメージしてもらいやすくなります。
また、その部分を強調したり、ジェスチャーをつけたりすると、さらに効果的です。
ただし、正確に伝える必要があるときは、使わないようにしましょう。
また、オノマトペだらけの話は、長嶋茂雄元監督の話のように、意味不明になってしまうことがありますので注意が必要です。
❹「っ」の3秒止め
「やっぱり」「とっても」「まったく」など、小さな「つ」が入る言葉は、たくさんあります。
関西人なら、「むっちゃ」とか「めっちゃ」もありますね。
こうした言葉を使うときに、「っ」で3秒くらい止めるイメージで話す方法です。
すると、この後に続く言葉が、見込客に刺さりやすくなります。
「とっ(1,2,3)ても簡単です」
「まっ(1,2,3)たく関係ありません」
音楽と同じで、話し方に「変化」がないと、とても退屈な感じになります。
「っ」3秒止めは、なんてことはないテクニックですが、話に変化をつけることができるので、見込客の注意を引きつけることができます。
コツとしては、本当に3秒くらい止める感じでやることです。
そんなに止めて大丈夫か、と思うかもしれませんが、まったく心配ありません。(実証済み)
自分の話し方を確認する
「話し方に自信がない」という人もいれば、「話すのは得意だ」という人もいます。
しかし、自分がどんな話し方をしているのかを、実際に確認して検証した、という人はほとんどいません。
自分の実際の状態を知ることなしに、上達することは100%不可能です。
今は、タブレットやスマホで、いとも簡単に録音、録画ができるで、ぜひ自分の話し方を確認してみてください。
まとめ
営業マンの多くは、「日本語で話しているのだから、伝わっているだろ」という大きな勘違いをしています。
日本語だからといって、伝わるわけではありません。
実際、多くの見込客は、わかったようで、よくわかっていない、という状態に陥っています。
そうなってしまう最大の要因は、営業マンが、わかりにくい内容を、わかりにくい言葉で、わかりにくく話すためです。
こうなると、もう「わかりにくいの三重苦」です。
営業マンであるなら、とことんわかりやすさを追求すべきです。
誰からも「わかりやすいね」と言われるような話し方は、営業では最大の武器なのです。