プレゼンに向かう営業マンに、「うまくいきそう?」と声をかけると、その答えは2パターンに分かれます。
「ええ、今日、決まると思います」
「プレゼンしてみないとわからないですね」
前者が売れている営業マン、後者がその他大勢の営業マンです。
結論から言うと、プレゼンで一か八かの勝負するという時代は終わりました。
実は、優秀な営業マンはプレゼンに入る段階で、ほぼ勝てると読んでいます。
実際、負けることはほとんどありません。
なぜ彼らはそんなことができるのでしょうか。
Contents
昭和の営業スタイルの限界
プレゼン勝負の時代の終焉
僕が大学を卒業して証券会社に入社したときはバブル黎明期。
営業マンは、とにかく数多くアタックしてプレゼン(提案)する。
そして、イエスがもらえるまで何度もクロージングをする。
つまり、営業とは商品を売り込むこと、それが当時の常識でした。
とはいっても、こうした昭和の営業スタイルを、今も信奉している営業マンや上司は数多くいます。
しかし、誰でも簡単に情報を得られるようになった今、この営業スタイルで長く売り続けるのは不可能です。
フル装備をした相手に、竹槍一本で正面突破を図っても勝ち目はありません。
実は、優秀な営業マンはプレゼンで一か八かの勝負なんかしていないのです。
彼らの中には、クロージングなんかしたことない、という人もたくさんいます。
そもそも、彼らにとって営業は戦いではないのです。
提案型営業のセールスプロセス
まずは、トップ営業マンが実践する提案型営業と、昭和の営業スタイルの違いをセールスプロセスで比べてみましょう。(※ FF=fact finding ヒアリングのこと)
昭和の営業スタイルは、とにかくプレゼン、クロージングが勝負どころ。
商談は、いきなりプレゼンからスタートするといった感じです。
お決まりのトークは、
「商品だけでも見てください」
「説明だけでも聞いてください」
つまり、商品ありきの営業スタイルです。
「ご覧下さい!どうですか、素晴らしいでしょう!」
と、一方的にプレゼンを進めて、購入を煽るテレビショッピングに似ています。
一方で、トップ営業マンが実践している提案型の営業スタイルは、アプローチからヒアリング(FF)までがすべて。
いかに見込客のニーズを掘り起こせるか、が最大のポイントなのです。
つまり、商品ありきではなく、見込客のニーズありき、なのです。
トップ営業マンは、セールスの早い段階で見込客のニーズを探り出し、プレゼンに入る前には「ぜひ、この人から提案を受けたい!」という状態にしているのです。
ニーズを聞き出すことが難しいわけ
上司から「ちゃんと顧客のニーズを聞いてこい!」と言われたことありませんか。
しかし、
「いや、そのニーズが分からんから苦労してるんやろ!」
と、言いたい営業マンもたくさんいるはずです。
実は、ニーズを聞くとはいっても、そんなに簡単なことではないのです。
その理由は大きく2つあります。
- 見込客は簡単に本音は出さない
- 見込客は自らのニーズが分かっていない
見込客が本音を出さない理由
ニーズを探るために、営業マンはあれこれと質問をします。
しかし、見込客が正直に答えてくれることは滅多にありません。
その理由は主に以下の3つです。
- 正直に答えると売り込まれるんじゃないか、と警戒する
- その商品やサービスに、ネガティブな先入観や偏見を持っている
- 要望や希望が多いと高いものを勧められる、と不安になる
結局、思ってもいないことや、テキトーな回答をしてくることが多いのです。
にもかかわらず、その見込客の答えをニーズだと早合点してプレゼンしてしまう営業マンがいます。
当然、かなり高い確率でピントのズレたプレゼン(提案)をしてしまう羽目になります。
自分のニーズが分からない理由
もうひとつの問題は、見込客は自分のニーズがはっきりとは分かっていないという点です。
なぜ、分かっていないのかというと、現実に向き合ってちゃんと考えたことがないからです。
生命保険などはその最たるものです。
僕がいた外資系保険会社のセールスの教科書には、
人間の特性には、「責任を回避し、現実に直面しようとしない」「物事を先に延ばす」といった人間の基本的な弱さとでも呼ぶべきものがある…
と記されていました。
あなたも、「げっ! 見なかったことにしよ」と、現実から目を逸らしたり、「ま、とりあえず後で」と先延ばしにしたことがあるはずです。
その結果、見込客は以下のような状況に陥っている可能性が高いのです。
- 問題はあるが、何が原因がよく分からない
- 問題を解決するために、何をどうしたらいいのか分からない
- 問題はあるのに、それが問題だという認識がまだない
つまり、頭の片隅に「何かした方がいいのかな」「このままで大丈夫なのかな」という考えが浮かんでも、結局そのまま放置して、いつしか忘れてしまっていることが多いのです。
この状況の見込客にいくらニーズを聞いたところで、「今はまだ大丈夫です」とか「特にはありません」といった回答しか得られないのは目に見えています。
ヒアリングで押さえておくべきポイント
では、どのようにしたら、本当のニーズや課題を明らかにできるのでしょうか。
ヒアリングをする際に、押さえておきたいポイントを挙げてみます。
最初の状況質問でハマる落とし穴
商談では、「〇〇は使っていますか?」とか「どこのメーカーのものを使ってますか?」といった、見込客の現状を知るための質問からスタートすることが多いはずです。
こういった質問のことを状況質問と言います。
しかし、この状況質問にはちょっとした落とし穴があります。
それは、状況質問は営業マンのための質問であって、見込客にはなんのメリットもないということです。
なので、状況質問をする際には、次の2つを意識しておきましょう。
- 質問することの同意を得る
- 即答しにくい質問から始めない
質問することの同意を得る
状況質問というのは、いわば他人の家に上がって中を見せてもらうようなものです。
他人の家に勝手に上り込む人はいません。
質問する際には必ず同意を得る習慣を身につけましょう。
「最初にいくつか質問させてもらってもよろしいですか?」
「差し支えなければ、教えてもらってもいいでしょうか?」
ちなみに、僕の長い営業人生の中で、「なんでやねん!」と、拒否されたこと一度もありません。
実は、これ、重要なポイントなのです。
どうやら、一貫性の原理という心理学上の法則があって、人は自分が言ってしまった言葉に無意識に縛られるらしいのです。
実際、「いいですよ」と同意さえもらえば、そのあと少々突っ込んだ質問をしても、見込客は不快に感じないのということは現場で体感済みです。
【一貫性の原理】
人は自身の行動、発言、態度、信念などに対して一貫したものとしたいという心理が働く。この心理を「一貫性の原理」と呼ぶ
ー Wikipedia ー
ちなみに、個人情報をオープンにすることにアレルギーがある人もいます。
場合によっては、入手した個人情報の使用目的なども伝えておきましょう。
即答しにくい質問から始めない
次に、最初から即答しにくい質問をするのは避けましょう。
以前、生命保険会社のマネージャーだったとき、某研修会社の若い営業マンから営業されたことがありました。
いきなり彼がしてきた質問は、
「支社長の経営理念はなんですか?」
思わず、
「はあ?お前、うちの本社の回し者かっ!」
こんなことにならないように、まずは「はい」「いいえ」で、簡単に答えらる質問から始めましょう。
これを限定質問(クローズドクエスチョン)と言います。
もうひとつ気をつけて欲しいのが、見込客に「わかりません」「知りません」と言わせないことです。
この言葉を何度か言わされると、バカにされてる気分になり、その先の話を聞く気が失せてしまうのです。
ヒアリングに欠かせない安全の場
状況質問が終わると、今度は見込客のニーズや課題を明らかにするためのヒアリングに入ります。
ヒアリングを成功させるためには、次の2つが重要なポイントになります。
- 真剣に考えてもらうこと
- 正直に話してもらうこと
見込客に真剣に考えてもらい、正直に話してもらうには、まず安全の場を提供する必要があります。
ヒアリングにおいて最も大きな障害になるのは見込客の警戒心だからです。
なので、ヒアリングでは、「売る」ことはいったん忘れます。
カッコいい言い方をすると、医者や弁護士のように、見込客の本当の問題を解決してあげたい、というマインドにスイッチを入れるのです。
そんな美しい姿勢で本当に売れるのか、と思うかもしれませんが、僕が知っているトップ営業マンたちは例外なくそのスイッチを持っています。
それが相談する人、相談される人という理想的な関係を築ける理由なのです。
絶対にやってはならないのが、見込客が口にした課題や悩み、願望にすぐ飛びついて売り込みすることです。
そこで商談はゲームオーバーになります。
効果的なヒアリングのための質問技法
方向性を意識した質問をする
まず質問には縦方向と横方向という方向性があることを理解しておきましょう。
この質問の方向性を理解できると、質問の達人になれます。
イメージしやすいようにシンプルな絵で表してみます。
上に向かう質問は、階段を登っていくイメージです。
見込客は、高いところから全体を見ることができるようになります。
上に向かう質問は、本来の目的や動機など、本質的なことに気づかせることができる質問です。
目的がズレたり、わからなくなったと感じたときに使ってみましょう。
【上方向の質問】
「そもそも、なんのためなのでしょうか?」
「その結果、どうなりますか?」
「それにはどんな意味がありますか?」
下に向かう質問は、逆に地面を掘り下げていくイメージ。
物事をより詳細に、具体的にする場合に使います。
【下方向の質問】
「具体的にはどういうことでしょうか?」
「詳しく教えてもらってもいいですか?」
「できることは何でしょうか?」
横方向の質問は、狭くなった視野を広げたり、違う視点から物事を見ることを可能にします。
【横方向の質問】
「他にもありますか?」
「それ以外はどうでしょうか?」
「例外もありますか?」
いろいろな方向から質問することによって、見込客は自分でも気づいていなかった問題、あるいは欲求に気づくことができます。
方向性を意識をした質問は、ヒアリング技術のレベルは格段に向上させます。
過去→現在→未来の順に質問する
うまく質問ができないという人は、質問があちこちに飛んでしまうという傾向があります。
そんな悩みがあるなら、過去→現在→未来に順に質問してみましょう。
過去の出来事から聞く
過去の出来事を聞くことで、これまでの経緯がわかるだけでなく、見込客の価値観や考え方、ときには性格まで知ることもできます。
また、過去にとった行動から、見込客の未来の行動を予測することも可能になります。
「〇〇を買われたのはいつのことですか?」
「買うことになったきっかけは何だったんですか?」
「そのとき何か心配だったのですか?」
実は、過去のことを聞くことによって、見込客自身が忘れていた何かに気づく可能性があります。
個人的な経験から言うと、人は何かに気づかせてくれた人を無条件に信頼する、という傾向があります。
もし、「そういえば」とか「今、思えば」という話が出てきたとしたら、すでに見込客はあなたに信頼を寄せはじめているはずです。
現在の状況を把握する
見込客が過去に考えたことや、とった行動が、今現在どうなっているのかを聞いていきます。
営業においては、見込客の現状をしっかりと理解することが何よりも重要です。
「結果的に、今はどういう状況なのですか?」
「実際に使ってみてどうだったんですか?」
「今、あらためて振り返ってみてどう思いますか?」
こうした質問に対して、見込客の答えは、満足している、というプラスの答えと、不満がある、問題だと思っている、というマイナスの答えに分かれます。
マイナスの答えであれば、より深く掘り下げていきます。
「と言いますと?」
「具体的にはどういうことですか?」
「詳しく教えてもらっていいですか?」
さらに、見込客の本音を知るために、次の質問をしてみましょう。
「それは、〇〇さんにとってどうなんですか?」
「それは、ご家族にとってどうなんですか?」
「それは、御社にとってどうなんですか?」
実は、この「〜にとってどうなんですか?」という質問には強烈なパワーがあります。
是非、使ってみてください。
一方、もし、満足しているというプラスの答えが返ってきても焦る必要はありません。
そのまま、未来に向けた質問につなげていきます。
未来の目的や理想を考えてもらうことによって、現状に不満を感じ始めることがあるからです。
未来に向けた質問をする
現状の問題が分かったら、理想とする未来は何か、具体的にどうしたいのかを質問していきます。
「どうなったらいいと思いますか?」
「どんな状態が理想的ですか?」
「本当はどうしたいのですか?」
こうした質問の答えに共感しながら、より深く、広く聞いていきます。
そして、見込客の理想や希望、欲求がわかったらそれを整理して確認します。
この確認をしない営業マンが多いのですが、確認すると「いや、やっぱり違うかな」とか「あと、こんなことも」といった答えが返ってくることがあるのです。
それが本当のニーズなのか、他にモレはないのか、確認する習慣をつけましょう。
「つまり、〇〇さんの望んでいることは…ということですね?」
「〇〇さんは、…したいとお考えなんですね?」
ニーズの確認ができたら、さらに、それを実現しよう、という勇気を持ってもらうために、実現したあとのイメージを質問してみましょう。
「それが実現したら、どのような影響があるでしょうか?」
「それが解決したら、誰が一番喜びますか?」
「それができたら、次は何をしたいですか?」
ヒアリングの仕方に決まりはありませんが、過去→現在→未来と聞くことでヒアリングに流れ、つまりストーリーができます。
こうした時間軸を意識したヒアリングができるようなると、時間軸上を行ったり来たり自由に動きながらヒアリングできるようになります。
レスポンスに注意する
コミュニケーションはキャッチボールです。
営業マンが「質問」というボールを投げると、見込客から「答え」というボールが返ってきます。
この返ってきたボールを、ちゃんとキャッチしない営業マンが多くいます。
キャッチするとは、ただ答えを聞くことではなく、ちゃんとボールを受け取りましたよ、と見込客に伝えることです。
つまり、見込客の答えに対するリアクションが超重要なのです。
例えば、あなたが子供とキャッチボールするとき、
「ナイスボール!」とか「うまいねえ!」とか、声をかけながらキャッチしているはずです。
ただ、質問して答えを聞くだけだと、アンケート調査か世論調査みたいな無機質なヒアリングになってしまい、見込客も答えるのがメンドーになってしまいます。
質問することばかりに気が取られないように注意しましょう。
質問の引き出しを用意しておく
質問は、わからないことを聞く、というだけでなく、質問によって相手に気づきを与えたり、動機付けたりすることができます。
ところが、とっさに効果的な質問を繰り出すのは、なかなかできることではありません。
その最大の要因は、持っている質問のレパートリーが少ないこと、質問するという経験が足りないことです。
どんな質問ができるだろうか、質問をしたらどんな答えが返ってくるだろうか。
事前にこういった思考実験を何度も繰り返し、そして実際に商談で使ってみる。
こうした経験によって、質問のレパートリー、つまり引き出しの数が増えていくのです。
効果的な質問ができる営業マンは多くありません。
それができるだけで、他の営業マンとの差別化することができます。
まとめ
プレゼンが決まらないと、プレゼンのやり方やクロージングに原因があるのか、と考えがちです。
もちろん、そこに課題があるのかもしれません。
しかし、多くの場合、プレゼンに入るまでに勝負がついてしまっています。
営業とは、商品を説明して売り込むことではありません。
見込客の隠れたニーズや問題を明らかにし解決すること、なのです。
そのマインドチェンジができれば、売れる営業マンになることができるはずです。
- プレゼン勝負の時代ではない
- 提案型営業のセールスプロセス
- 見込客が本音を出さない理由
- 自分のニーズが分からない理由
- 最初の状況質問でハマる落とし穴
- ヒアリングに欠かせない安心の場
- 方向性を意識した質問をする
- 過去→現在→未来の順に質問する
- 質問の引き出しを用意していおく