些細なものも含めると、日常には、説明があふれています。
「誰かに説明をする」
「誰かの説明を聞く」
しかし、伝える、理解してもらう、といったことが、意外にうまくいきません。
実は、「自分が理解できた」と「それを説明できる」は、まったく別のものなのです。
営業も同様です。
営業マンは、自分が知っていることは、説明できると思っています。
しかし、それは大きな勘違いです。
実際、多くの見込客は「わかったようで、よくわからない」という状態に陥っています。
見込客が納得できないのは、商品や価格ではありません。
営業マンの説明の仕方なのです。
見込客は、常にシンプルでわかりやすい説明を求めています。
しかし、そういう説明ができる営業マンはそう多くありません。
裏を返せば、「わかりやすい!」と言ってもらえる説明ができるだけで、その他大勢から抜き出た特別な存在になれるということです。
Contents
「わかりやすい」とは、どういうことか?
そもそも、わかりやすい説明とは、どういう説明なのでしょうか。
僕は「聞き手の脳に負担がかからない説明」と定義しています。
つまり、聞き手が頑張らなくてもわかる説明です。
そもそも、見込客は「頑張って理解するぞ」なんて思っていません。
なので、脳に一定以上のストレスを感じると、あっという間に離脱してしまいます。
どうすれば、見込客の脳かかる負担を軽減できるのか。
その基本的なコツを、「説明を始める前(準備編)」「実際に説明するとき(本番編)」の2場面に分けて考えてみましょう。
今回は、「説明を始める前(準備編)」です。
説明を始める前にやること
わかりにくい説明になる根本的な要因。
それは、営業マン自身の頭の中が整理されていないことに尽きます。
知らないことは説明できません。
しかし、知っているからといって、わかりやすく説明できるわけではないのです。
説明をする前に、まず自分の頭の中をちゃんと整理しておくことが大切です。
しかし、むずかしいことする必要はありません。
やるべきことは、次の3つです。
- 説明する対象の本質を捉える
- 3部構成にまとめる
- 不要なものを捨てる
整理する力とは、言い換えると「要約力」です。
「要約力」を身につけるための、頭の使い方を、具体的に考えてみましょう。
説明する対象の本質を捉える
「そもそも」という問いを立てる
本質とは、「物事の根本的な性質、要素」のことです。
簡単にいうと、「そもそも、どうしてなの?」という問いの答え。
これは、僕がまだド新人の保険営業マンだったときの話です。
本質を知らずに、うわべの知識だけで説明すると、こんなことになります。
まず自分自身が「そもそも、なぜそうなのか?」という問いを持つことが必要不可欠です。
そもそも…
なぜ、この商品は存在しているのか?
なぜ、この機能がついているのか?
なぜ、リニューアルされたのか?
こうした問いを立てることによって、本質がわかってくるはずです。
本質を知ることが、わかりやすい説明をするための第一歩になります。
ポイントを考える
本質がわかると、重要なポイントは何か?、根拠や背景は?、結論は?など、説明を組み立てるときのポイントと、その関係性が見えてきます。
ポイントとは、料理に使う「食材」と同じです。
まず、どんな食材が使えるのを考えてみます。
そして、その中でメインになる食材は何かを見極めるのです。
このとき、先ほど確認した本質を外さないようにしましょう。
本質から外れると、いくら食材が良くても、何の料理かわからなくなってしまいます。
つまり、一貫性のない説明になってしまうのです。
目的をはっきりする
目的とは、最終ゴールのこと。
つまり、説明を聞いてもらった見込客に「どういう状態になって欲しいか」ということです。
営業マン育成の経験から言うと、説明のポイントはわかっていても、目的が曖昧な営業マンが非常に多いと思います。
例えば、営業マンがよくやっている自社の会社案内
目的もわからずやっていると、おかしなことになります。
見込客に、どういう状態になってもらいたいのか、どういう行動をとってもらいたいのか、という目的を考えましょう。
目的がないのであれば、説明する必要はないのです。
アウトプットして見える化する
本質を見極め、説明のポイントや目的が見えてきたら、それをアウトプットして見える化します。
ノートやポストイット、パソコンなどを使って、頭の中にあるものを書き出します。
書き出したものを実際に見ることには、次のようなメリットがあります。
- 全体像が把握できる
- 説明の組み立てがイメージできる
- 新しい発想、アイディアを思いつく
- 重要なもの、そうでないものがわかる
頭の中にあるだけでは、本番でうまく使えないという事態を招きます。
ぜひ、アウトプットして見える化する習慣をつけましょう。
シンプルな3部構成にする
「つかみ」「本題」「まとめ」で OK
ポイントと目的がある程度明確になったら、組み立てに入ります。
机を整理整頓するときをイメージしてみましょう。
このときに鍵になるのは、実は「引き出し」です。
なぜなら、引き出しの数や大きさは決まっているからです。
結局、どのように整理できるかは、引き出しが決めているのです。
説明の場合も同様です。
まず、3つの引き出しを用意します。
つまり、3部構成にするのです。
構成は、順に「つかみ」「本題」「まとめ」でOKです。
こんなに単純で大丈夫?と思うかもしれませんが、営業では、むずかしいフレームワークや、複雑なスキームは必要ありません。
3部構成にする理由は、そのシンプルさです。
- 説明が組み立てやすい
- 聞き手が理解しやすい
- とっさの説明にも対応できる
引き出しがたくさんあると、整理するときに考えることも多くなります。
また、何がどの引き出しにあるのか、わからなくなるかもしれません。
まずは、3部構成を基本に考えるようにしましょう。
さて、ここで重要なのは、この3つの「つながり」です。
「つながり」が、ストーリーを生み、それがわかりやすさを作り出すのです。
一方、「つながり」がない説明は、バラバラになった紙芝居と同じで意味がわかりません。
構成を「つかみ」「本題」「まとめ」にするだけで、ある程度のストーリーがイメージできるはずです。
説明は「つかみ」が勝負
最初に「つかみ」を考える
説明の組み立てを考えるときは、まず「つかみ」から考えてみましょう。
説明がうまくいくかどうかは、この「つかみ」にかかっています。
「つかみ」の目的は、たったひとつ。
それは「この先を聞いてみたい」という姿勢にさせることです。
説明やプレゼンの上手い人は、間違いなく「つかみ」にこだわっています。
一方で、「つかみ」がイマイチな説明は、そのまま残念な結果に終わることが多いように思います。
「つかみ」は、説明のポイントや目的がぼんやりしていると決まりません。
逆に「つかみ」がイメージできると、「本題」「まとめ」は意外にすんなり決まります。
「つかみ」=「問題提起」と考える
「つかみ」がイメージできない人は、「つかみ」=「問題提起」と考えてみましょう。
問題提起とは、文字どおり、問題や課題を投げかけることです。
ビジネス書などのタイトルで、よく見かけるあのパターンです。
「なぜ、ダイエットは続かないのか?」
「成功者は、なぜ瞑想をするのか?」
「英語が話せない人の共通点とは?」
問題提起は、疑問形、つまり謎かけにします。
謎かけにすることによって、聞き手は「え、どうして?」という関心を抱きます。
『影響力の武器』の著者、チャルディーニは、次のように言っています。
謎には威力があると、チャルディーニは言う。
結末を知りたいという欲求を生み出すからだ。「『なるほど』と思わせることが大事なことは知っているだろう。
実は、その前に『はあ?』と思わせておくと、『なるほど』の満足度がぐっと増す」チップ・ハース、ダン・ハース著
「アイディアのちから」
「つかみ」「本題」「まとめ」のパターン
ここで参考までに、組み立てのパターンをいくつか挙げてみます。
何を「つかみ」にするのかによって、いろいろなパターンが考えられます。
【結論から始める基本的なパターン】
いつでもどこでも使える、汎用性の高い基本的なパターン。
特に、見込客にとって予想外、あるいは反対の結論のときは、「つかみ」に結論を持ってきましょう。
意外性のある結論は「つかみ」にうってつけです。
【TVショッピングのパターン】
実例を「つかみ」に持ってくることで、「え、どうして?」という関心を起こさせるパターン。実例にインパクトがあると効果的です。
また、あれこれ説明するのより、事例を紹介した方がわかりやすいときにも有効です。
【意外性のある展開パターン】
多くの人が信じていること、当たり前だと思っていることを、打ち消すパターン。
インパクトのある「つかみ」になります。
【手順などの説明のパターン】
操作の手順、契約の手続きなど、実務的なことを説明する場合は、まず「つかみ」で全体像と流れを示しましょう。
また、最後の「まとめ」で、例外や困ったときの対処法などを説明してあげると、安心してもらえます。
不要なものを捨てる
完璧であるというのは、追加するものがなくなったときではなく、
取り除くものがなくなったときである
サン=テグジュペリ「星の王子さま」著者
わかりやすさの最大のポイントは、とにかく単純明快さ。
そのために、説明の組み立てを考えながら、不要なネタを思い切って捨てていきます。
しかし、営業マンの多くは、それがなかなかできません。
その理由は大きく2つあります。
- 伝わらないのではないかという不安
- 認められたいという承認欲求
特に、注意したいのが❷の承認欲求です。
知識や経験が増えてくると、それを見込客にアピールしたくなります。
確かに、豊富な情報・知識を持っている営業マンは信頼されます。
しかし、商談で見込客が知りたいのは、自分にとって必要な情報だけです。
地図を使うとき、知りたいのは目的地へのルートだけ、それ以外の地図上の情報は、まったく不要だということです。
とにかく、勇気を出して「捨てる」ことを習慣にしましょう。
とっさの説明力を身につける
ここまで、説明をする前にやるべきことについて考えてきました。
しかし、実際の営業では、準備していない説明を、とっさに求めらることが多くあります。
このとき、必要になるのは、やはり要約力です。
ただし、時間がないので、真っ先に「結論」を考えます。
そして、その「結論」を「つかみ」にして、3部構成で説明するのです。
営業はライブ演奏と同じです。どうしてもアドリブ能力が必要になります。
しかし、ここまでにご紹介した事前の準備を、何度も繰り返していると、脳にその思考回路ができてきます。
これが、とっさの説明にも対応できる「要約力」になるのです。
まとめ
多くの営業マンは常に、伝えたい、理解してもらいたい、と考えているはずです。
しかし、そこで終わらず、「ホントによくわかりました!」と言ってもらえるような説明を目指しましょう。
なぜなら、「わかりやすい説明」は、最強に武器になるからです。
そのためにも、説明をする前にしっかりと頭を整理する習慣を身につけましょう。