売れる営業は、コース料理
売れない営業は、ビュッフェ形式
この意味が一瞬でわかる人は、おそらく営業ができる人だと思います。
ちなみに、コースとビュッフェでは、何が違うでしょうか。
コース料理の特徴は、
- 料理の内容が決まっている
- 料理の順番が決まっている
- 料理の順番には意味がある
- 料理の提供者に主導権がある
ビュッフェ形式にはこれらはありません。
実は、売れる営業マンは常に主導権を握り、商談をコース料理のような確立した手順で進めます。
これが、いわゆる「セールスプロセス」と呼ばれる営業プロセスです。
しかし、セールスプロセス通りに商談を進めても、それで売れるわけではありません。
この記事では、セールスプロセスとは何か、なぜ必要なのか、といった基本的な概念について解説します。
これが理解できれば、なぜ思うように成約にならないのかがわかるはずです。
Contents
セールスプロセスとは?
「セールスプロセス」とは何でしょうか?
決まった定義があるわけではありませんが、概ね初回商談から成約(購入)に至るまでのセールス活動のステップ、手順のことを指します。
セールスプロセスは、ブラックボックスになりがちの営業を、「見える化」させ、「再現性」の高いセールスの実現を図るものと言われています。
いろいろな考え方があり、またいくらでも細分化できますが、だいたい次のようなものが一般的です。
おそらく、「ああ、これね」「やってるし」といった感じだと思います。
では、質問です。
「セールスプロセスは、何のためにあるのでしょうか?」
セールスプロセスの必要性とは
なぜセールスプロセスがあるのか
そもそも、セールスプロセスは、何のためにあるのでしょうか。
これを営業マンに聞いてみると、だいたい次のような答えが返ってきます。
- 効率的に売れる
- ニーズをつかみやすい
- 論理的に商談を進められる
- より良い提案ができる
その通りなのですが、これらは結果です。
重要なのは「なぜ、そうなるのか」という、その理由です。
実は、セールスプロセスは、営業マンが売るためのプロセスではないのです。
セールスプロセスは心理プロセス
- 「売るため」のプロセスではない
- 「買ってもらう」プロセスである
セールスプロセスは、営業マンありきのプロセスではありません。
見込客ありきのプロセスなのです。
セールスプロセスの根幹にあるもの、それは、
何かを買うとき、人はある一定の心理プロセスをたどる
という原理です。
この心理プロセスに則って考えられたものが、セールスプロセスなのです。
つまり、「どうやって売るのか」ではなく、「なぜ人は買うのか」という視点で考えなければ、セールスプロセスは効果を発揮しません。
この見込客の心理プロセスを、ここでは「購入プロセス」と呼びましょう。
購入プロセスを理解する
購入プロセスとは何か?
購入プロセスとは、一般的に「購買心理」と言われているものです。
さまざま考え方があるのですが、ここでは8ステップで考えていきます。
人が何かを買うとき、心理(感情)は、このように推移していきます。
例えるなら、これは「心のシャッター」です。
営業とは、このシャッターを開けていくことに他なりません。
セールスプロセスはそのためにある、ということを、まず理解しておきましょう。
セールスプロセスと購入プロセス
セールスプロセスが、購入プロセスを元にしているのであれば、この2つをちゃんとリンクさせる必要があります。
思うように売れない営業マンは、とにかくセールスプロセスを先へ進めようとします。
すると、セールスプロセスと購入プロセスに「ズレ」が生じてしまうのです。
その結果、営業マンだけが先に進んで、見込客が置いてけぼりになってしまいます。
(そんな気ないねんけど)
これが、俗にいう「温度差」というやつです。
セールスプロセスは、あくまでも手段です。
したがって、アプローチからクロージングに至るまでの各プロセスには、見込客の心のシャッターを、「どこまで開けるか」という、明確な目的が必要です。
そのためには、常に2つのことに集中する必要があります。
- 今、見込客はどういう心理状態か
- その心理状態がどう変わったのか
もう少し詳しくみていきましょう。
どこからスタートするのか?
購入プロセスを使って、次の3つのパターンを比較してみましょう。
- 自動販売機
- 販売・集客・接客
- 一般的な営業
これにより、営業とはどういう仕事なのかを理解することができるはずです。
自動販売機
まずは「自動販売機」
たとえば、自販機でドリンクを買うとき、どういう心理状態でしょうか。
自販機の前に立ったときには、すでに「喉を潤したい」「一服したい」などの「欲求」が起こっています。
心のシャッターはかなり開いた状態。
購入プロセスは、商品の「比較」からスタートし、どれにするか「決心」し、お金を入れて「購入」します。
自動販売機での購入に、営業マンは不要です。
なぜなら、営業マンがシャッターを開ける必要がほとんどないからです。
販売・集客・接客
次に、「販売・集客・接客」を考えてみましょう。
たとえば、車のディーラーや、住宅展示場にやってくる見込客です。
自ら行動を起こしているので、すでにシャッターは「関心」、場合によっては「不満」「欲求」まで開いています。
セミナーやSNSでの集客も、このパターンになります。
基本的には、来店型の「待ち」のスタイル。
広い意味では「営業」というのかもしれませんが、厳密にいうと「販売」になります。
一般的な営業
それでは、一般的な営業について考えてみましょう。
営業マンの最大の仕事は、新しい顧客の開拓です。
新規開拓は、こちらから積極的にアプローチを仕掛けるため、「否定」や「無関心」といった状態から営業がスタートします。
つまり、心のシャッターが、ほぼ閉まっている見込客に対峙することになります。
通常、住居でも店舗でもシャッターを閉めるのは、部外者の侵入を警戒するからです。
これは、営業でも同じです。
見込客からすると、営業マンは警戒を要する部外者なのです。
そのシャッターを少しでも開けてもらわなければ、営業は始まりません。
ここが営業のむずかしいところなのです。
では、各セールスプロセスと購入プロセスが、どのようにリンクするのかを考えてみましょう。
セールスプロセスと購入プロセスの関係
・アプローチ
・ヒアリング
・プレゼンテーション
・クロージング
まず、これらのプロセスのゴール(着地点)をはっきりさせておきましょう。
前述のとおり、ゴールとは見込客のシャッターを「どこまで」開けるか、ということ。
とはいっても、これは扱う商材や、営業スタイルによって微妙に変わってきます。
なので、ここでは難しいと言われる「生命保険」の営業を元に解説しますので、それをご自身の営業に当てはめて考えてみてください。
①アプローチ(初回商談)
新規の見込客に対する初回アプローチは、最初にして最大の山場です。
というのも、多くの場合、「否定」「無関心」といった見込客と対峙することになるからです。
生命保険の場合は、「否定」以前の「嫌悪」といった場合もあります。
ところで、アプローチの目的は何でしょうか。
多くの営業マンは、初回のアプローチの目的を次のように考えているようです。
- 人間関係を築く
- 自分や会社を知ってもらう
- 見込客の現状を把握する
- 見込客の課題をつかむ
どれも必要なことなのですが、これらは「手段」であって「目的」ではありません。
アプローチ(初回商談)の目的は、次の2つです。
- 現状に「不満」を感じてもらう
- もっと知りたいと思ってもらう
不満とは、不満感、不安感、不足感、のことです。
生命保険営業の場合、アプローチで最低でも「不満」レベルまでシャッターを開けもらわなければ、次回のチャンスはありません。
理想としては、「欲求」レベルまでシャッターを上げたいところです。
つまり、
「このままではマズいのかな…」
「いい方法があるなら知りたい…」
「考えてみるべきかな…」
といった気づきが、見込客に中に起こる必要があるのです。
つまり、アプローチでは現状に対して、何か不満や不安、あるいは疑問を感じてもらわなければならない、ということです。
そのために必要なのが、そこへつながる「問題提起」です。
問題提起とは、問題や課題、疑問などを投げかけることです。
アプローチは、どんな形であれ「問題提起」をするステージなのです。
②ヒアリング
生命保険業界では、この「ヒアリング」のステップは、Fact Finding(通称FF)と呼んでいます。
一般的に、ヒアリングの目的は、次のように言われています。
- 見込客の現状を確認する
- 見込客の課題を見つける
- 見込客の要望や予算を聞く
これらは、「はい、その通り」です。
では、見込客の現状を確認し、課題を見つけ、要望や予算を聞くことができれば、万事オッケーでしょうか?
実は、そうではありません。
これがヒアリングの目的だと考えると、単なる情報・データなどの収集や、要望の確認で終わってしまいます。
これでは、見込客の心のシャッターはほとんど動かないのです。
そのために必要になるのが、「ニード喚起」です。
実は、ヒアリングのターゲットは、購入プロセスの「欲求」なのです。
ヒアリングの目的(ゴール)、それは次の2つです。
- 自らの問題に気付いてもらう
- 今すぐ解決したいと思ってもらう
そのためには、ヒアリングを通して、見込客が気づいていない潜在ニーズを掘り起こす必要があります。
そして、「現状」と「理想」のギャップを、具体的にイメージしてもらうのです。
これが、見込客の心の中にある、「現状を変えたい」「未来をより良くしたい」という欲求に火をつけます。
これが、ヒアリングの重要な目的なのです。
生命保険など、目に見えないものを扱う営業においては、ここが最大のポイントになります。
③プレゼンテーション
ここでアプローチ、ヒアリングの目的を一度整理しておきましょう。
【アプローチ】
・現状に「不満」を感じてもらう
・もっと知りたいと思ってもらう
【ヒアリング】
・自らの問題に気付いてもらう
・今すぐ解決したいと思ってもらう
これを見るとわかると思いますが、最終の「今すぐ解決したい」というレベルまでシャッターを開けることができていれば、受注の可能性は大幅に高くなります。
つまり、営業はプレゼンに入るまでが勝負なのです。
逆に、見込客が望む心理状態になっていなければ、いくら素晴らしいプレゼンをしても決まりません。
よくありがちなのが、「関心」レベルの見込客に、プレゼンテーションしてしまうパターンです。
これは「関心」を「欲求」だと勘違いした結果です。
実は、これが「検討します」と言われてしまう最大の要因なのです。
さて、ヒアリングまでが勝負とはいえ、プレゼンにも必ず押さえておくべき重要なポイントがあります。
それは、
プレゼンとは、解決したいという欲求を満たすこと
ということです。
プレゼンは、商品の説明や、メリットのアピールをすることではありません。
解決手段の提案なのです。
見込客が解決したいと思っている問題を、どのように解決できるのか、それを、具体的にイメージできるように伝える必要があります。
見込客の脳裏に、より良い未来のイメージが浮かんだときに、心が大きく動くのです。
人は、実利だけで「購入」するわけではありません。
手の込んだ資料を作りこみ、商品の特性やメリットを一生懸命に訴求しても、それだけでは「YES」は引き出せない、ということを知っておきましょう。
④クロージング
プレゼンテーションが終わると、営業マンにはもうできることはありません。
コース料理でいうと、メインディッシュの提供は終わったということです。
あとは、クロージングで締めるだけです。
この局面で営業マンは、ざっくり2通りに分かれます。
- A:「いかがですか」スタンス
- B:「どうしますか」スタンス
説明するまでもありませんが、「いかがですか?」はクロージングではありません。
これは、「お伺い」です。
クロージングとは、見込客に「YES」か「NO」を、はっきりと問いただす行為です。
ところで、なぜ商談ではクロージングが必要なのでしょうか。
その理由はひとつです。
人には、物事を先に延ばそうとする弱さがある
これは、誰もが持っている人間の基本的な弱さです。
そのため、「決心」するには、誰かの助けが必要なのです。
営業マンが背中を押すことで、見込客ははじめて「決心」できるのです。
「決心」と「購入」の間の壁
セールスプロセスは、クロージングで終わっています。
一方、購入プロセスの最終ステップは、「決心」→「購入」になっています。
これを、わざわざ分けているには理由があります。
それは「決心」と「購入」は違う、ということ。
見込客は、一旦は「決心」したからといって、必ず「購入」するとは限らないのです。
そのため、売れている営業マンは、「決心」で安心せず、しっかりと「購入」まで持ち込みます。
クロージングによって見込客が「決心」しても、セールスは終わりではないのです。
このことを理解しておくことは、営業において非常に重要です。
まとめ
「セールスプロセス」を知っている、実践している、という人は多いと思います。
しかし、その本質を理解している人は、残念ながら多くありません。
乱暴な言い方をすると、営業とは「その気のない人を、その気にさせること」です。
そのためには、見込客の心理(感情)をどのように動かせばいいのか、を理解しておく必要があります。
それが理解できれば、セールスプロセスの意味も理解できると思います。
本質が分かれば、セールスプロセスは、効率的で再現性の高い営業手法になります。
もし、プロセス通りに商談を進めているのに、思うような結果が出ない、というのであれば、購入プロセスとの関係性を見直してみましょう。
セールスプロセスと、購入プロセスがうまくリンクするようになれば、結果は飛躍的に変わると思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。